鈴木智彦著『サカナとヤクザ』補稿

新刊の資料、補足、写真、こぼれ話。

どうしてあれほど、ロシア人に直当てしたかったのか。

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ハーレーがロシア人相手のコミュニケーションに役立つとは思わなかった。

当時、日本に入ってくるロシアの船が、ほぼ確実にカニの密漁船であることは掴んでいた。カニの業者から、本国でばれると大変なのでインタビューには応じるはずないと忠告されていた。写真撮影などもってのほかで、撮ればトラブルになると脅された。実際、彼がなにをしているか概要は掴んでいたので、直接談話をとる必要はなかった。

それなのに、どうしてもロシア人から言葉が欲しかった。実話誌出身のコンプレックスなんだと思う。新聞記者やジャーナリストに負けたくないという思いは、今のところ正常に我が身の燃料となっているが、時と場合によって、自分がより頑なで潔癖な理想主義者になってしまい困惑する。

とはいえ、談話があれば、よりよいレポートになることは間違いない。どこかの魔法が使えるジャーナリストのように、通訳なしで外国人と立て込んだ会話が出来る能力はない。しかしこの通訳を探す作業がやたら大変だった。ロシアからのカニはほぼ密漁品である。それはロシア人なら誰でも知っている。元来、通訳たちは貿易の仕事に関わっている人が多く、彼らにすれば、絶対のアンタッチャブルゾーンなのだ。

『サカナとヤクザ』に出てくる岬ちゃん(仮名)をなんとか口説けたのはラッキーだった。正直、本に書いているよりcomplicatedな間柄なのだけど、密漁に関する本の中でそのことに触れるととめどなく脱線していくので省略した。彼女は何度も何度も、ロシア人相手に交渉を試みてくれた。

 

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花咲港のロシア船は、港の端っこにかたまっている。

実を言えば、特攻船の親玉だったKさんが、花咲港のロシア人たちをコントロールしていた。だからKさんに頼めば、ロシア人への取材は簡単にできるはずだった。が、Kさんは5年前から都合が悪いと電話に出ない人で、インタビューした際にロシア人への取材をお願いし、OKしてくれていたのに、なかなか電話が繋がらない。そのたび、根室での滞在が一週間、二週間と伸びていく。

結局、Kさんの手を借りず、自ら港に突撃することにして、岬ちゃんの交渉もうまくいったのだけど……結末はぜひ『サカナとヤクザ』をご覧下さい。