自著のための補稿(鈴木智彦)

自著の資料、補足、写真、こぼれ話。

根室に残る密漁の残滓

密漁で栄えた根室には、全国から有名な店のコックが集められました。そしてたくさんのオリジナル料理を考案した。それだけ街が賑やかだったわけです。『サカナとヤクザ』で、もっとも取材と執筆に時間をかけたのが根室の密漁です。関係者に直接話を聞けるの…

東庄の十一屋を今風にいえば密接交際者

東庄には天保水滸伝に出てくる十一屋が残っています。今は旅館をやめ、当主の陶芸展示室になっているんだけど、外観は往事を感じさせる渋いたたずまいです。ここでなにがあったかというと花会です。浪曲師は「はながい」と発音していますが、「はなかい」で…

東庄は町全体が暴力団推し

俺が知ってる限り、街ぐるみで地元のヤクザを観光資源にしているのは、静岡県の旧清水市(現静岡市清水区)と千葉県東庄町のふたつです。前者は清水次郎長の地元であり、後者は天保水滸伝の善玉である笹川繁蔵の縄張りになります。そう書くと、「当時の侠客…

銚子の飯屋について書かせてほしい。

出張先でTweetすると「あれがおいしい」「この店に行って下さい」とオススメされまして、そのたび、うるせぇ飯屋くらい自分で探せると思いつつ、「ありがとうございます」と完璧な社交辞令を返す俺ですが、ちょっと書きたい。銚子に行って寿司を食わないなん…

銚子・飯沼観音(圓福寺)のヤクザヲタ的宝物

東庄にある天保水滸伝の資料館でもコピーをくれる侠客番付のオリジナルがあるんですよ。天保水滸伝の登場人物、銚子の五郎蔵、飯岡助五郎、笹川繁蔵も載ってます。残念ながら少し滲んでいるんだけど、本物をみたのは初めてです。赤い縁取りがしてあるのも知…

千葉の喧嘩は銚子から始まる。銚子の喧嘩は飯沼観音から始まる。

戦後、高寅が熱心に寄進した銚子市の圓福寺は別名・飯沼観音という。戦後、一帯は銚子で最も賑わった繁華街だった。圓福寺は国道244号線を挟んで2つあり、おそらく観音前交差点近く、海側の五重塔があるあたりが、怪しげな店が建ち並んだエリア、言い替えれ…

途方もない数の遭難者、その象徴としての千人

千人塚海難漁民慰霊塔:千葉県銚子市川口町2丁目6426−3 第四章に出てくる千人塚。高寅の時代の慰霊碑もある。漁師たちの生活が刹那的だったのは、危険な仕事だったからでもあるだろう。今でも地元の人が花を手向けている。 昭和三十五年に建立された慰…

築地と豊洲に関する議論って、根本的にずれてないすかね?

たとえ4ヶ月でも、たとえバイトでも、魚河岸で働くと豊洲への移転について、ひとこと言いたくなるんだけど……仲卸の家賃安すぎるでしょ。具体的にいくらか書籍にもここにも書かないけど。 「築地移転問題 そもそも中央卸売市場が必要なのか」アジア成長研究所…

会社の重役とどうやってサシ飲みするか。

会社っていっても仲卸です。重役といってもアワビを扱っている魚屋さんです。いや、でもすっごい年商で、経営に噛んでる血族それぞれウン千万くらいの年収がある。社長の跡取り(甥っ子)は魚河岸を見下ろせるタワマン住んでるし。 ま、それはともかく、俺は…

魚河岸とヤクザ

魚河岸のとヤクザがどれほど深い仲だったのかは、昭和の映画を観るとよくわかります。この美空ひばりの主演作は今風にいえばアイドル映画だろうけど、日本侠客伝関東編は、魚河岸を舞台にしたガチのヤクザ映画です。魚河岸にヤクザがいても、誰一人驚かなか…

魚河岸の親分、佃政こと金子政吉

佃政初代は、元来、日本橋の親分です。魚河岸が日本橋にあった頃からの縁だったはず。築地には「佃」の字を使った屋号が多いけど(理由はググると死ぬほど出てきます)、ヤクザもそうだったというのは面白いですよね。たぶん、みなさんが思ってる以上に大親…

大物は築地の華である

記事のタイトルは、正延哲士の小説『伝説のやくざ・ボンノ』の有名な一節、「ボンノは、男の華である」オマージュです。実際、そう表現しても異存はなかろう。大物って言うのはマグロです。大きいからだと思います。知らんけど。第二章に、年末、俺が大物の…

密漁アワビと訴訟対策

築地市場で密漁アワビを売ってるかどうか確かめる!ってことでバイトを始めたんですけど、実を言うとすぐ分かったんですよ。あ、黒だなって。ぬるいんで。ただし、告発したいわけじゃない。動かぬ証拠を掴んで、糾弾したいわけじゃないんです。なので、途中…

築地市場の落書き

築地市場にはあちこちに「煙草を吸うな」「落書き厳禁」という張り紙があるんだけど、誰もがくわえ煙草で、そしてあちこちに落書きがあった。これは勝ちどき門にある駐車場ビルの中央にあるターレー用のエレベーター。4機あるんだけどいつもひとつか2つ壊れ…

落ちないのかなって思いませんか?

落ちるんですw 当然、落ちたよーって声をかけます。冷凍マグロだけではなく、発泡のケースも落ちます。カーブじゃなくても落ちる。高く積み上げた時、崩れないようラップを撒く時があるんですけど、それをしないほうがかっこいい、みたいなところはある。で…

築地魚河岸にある、恋人を連れて行きたい場所

それは冷凍庫です。マイナス18度より低いっす。密室に連れ込んでスケベなことをするわけではないw じゃあどうしてか。すっごくいい匂いがするんですよ。仕切りに使ってる木材と海産物の匂いが入り交じって。芳醇なウイスキーを連想させるような、最高の香り…

鮭のドレスとスーパー・バイトの加藤さん(仮名)。

第二章で出てくる鮭のドレス。ドレスとは魚の頭、エラ、内臓を取り除いたもののこと。この箱の中にドレスが4~6匹分入ってるんだけど、いったん取り出し、電動のこぎりで二枚下ろしにして、再び箱詰めして配送場所に運ぶ。これが午前2時に出社して、最初にや…

著者近影

築地の仲卸でバイトを始めた時、みるものすべてが新鮮で、あっちこっちに「遊びに来て!」と声をかけていた。いや、実際に来られてもバイト風情が提供できる特別サービスはないんだが。ただし、ターレーの後ろには乗ってもらえた。混雑した市場の中、たとえ…

築地市場の暴力団との決別宣言は2つあります。

最初は平成6年だから、たぶん暴対法が施行(平成4年)された直後、利権が欲しい警察が築地に乗り込んできて書かせたものだと思う。 もうひとつは平成24年だから、東京都の暴排条例に合わせて出されたんだろう。事務室の廊下に2つ貼ってある。こんなもん、俺…

魚河岸の仲卸に面接に出かけた朝は雨だった。

写真のExif情報をみると2013年12月19日‏5:56:16とある。面接は6時からだったんだけど、仲卸の跡継ぎが15分以上遅刻してきたので、仕方なく雨の中で待つことになった。しかしすごいよね。携帯で写真撮るだけで、そんなことまで記録され、自分の記憶がありあ…

ネダリ浜

ネダリ浜は正式名を弁天漁港という。俺が初めて取材したアワビの大量密漁事件は、この港で待ち伏せしていた海保職員が、北海道から遠征してきた密漁チームを現行犯逮捕したものだった。 「現場を見たいんですか?分かんないんじゃないかな。譜代漁協に行けば…

海上保安部と漁協

密漁は海の犯罪だから、どうしても海上保安庁に取材しなくてはならない。実際は警察も密漁を取り締まれるんだけど、海のプロの話が最も詳細、かつ面白い。ところが海保に正面から取材を申し込むと、まぁ役所はどこもそうだけど、取り締まりの現場を全然知ら…

原発作業員のハーレー・ダビットソン

(※第一章にあるネダリ浜に国道45号線。地元の軽トラに何度も道を譲った) 俺の悪いクセは、原稿の中にバイクや車やカメラの描写をやたら入れ込むことです。単純な話です。機械が好きだからです。『サカナとヤクザ』の第1稿にも、かなりその手の記述があった…

黒いあまちゃん

正直、なにもかも「黒いあまちゃん」という言葉の引きの強さからでした。当然、密漁の取材は三陸のアワビから始めました。当時はまだあちこちにポスターが貼ってあって、あまちゃんの裏側にあるドロドロを取材するのが少々後ろめたくもあった。いや、嘘はい…

第一章【岩手・宮城 三陸アワビ密漁団 VS 海保の頂上策作戦】の扉写真

実際、『サカナとヤクザ』第一章の扉で使った写真は、ここにあるウニとナマコを隣のテーブルを移動させ、アワビの皿だけを撮った別テイクです。皿に載せられたアワビの刺身……そして担当編集がつけた「アワビの密漁はヤクザのシノギ」というどーでもいいキャ…