自著のための補稿(鈴木智彦)

自著の資料、補足、写真、こぼれ話。

東庄は町全体が暴力団推し

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俺が知ってる限り、街ぐるみで地元のヤクザを観光資源にしているのは、静岡県の旧清水市(現静岡市清水区)と千葉県東庄町のふたつです。前者は清水次郎長の地元であり、後者は天保水滸伝の善玉である笹川繁蔵の縄張りになります。そう書くと、「当時の侠客は今の暴力団とは違う。人間として素晴らしいところがあったし、犯罪結社でもなかった。一緒にするな」と批判されるかもしれない。

実際、東庄で天保水滸伝の史跡をボランティアで解説してるみなさんは、笹川の墓の前で「この碑を建てるためにとてもえらい・すごい人が賛同してくれた。いまのヤクザ(※はっきりヤクザとか暴力団とは言わない)とは違う」うんぬん、無職渡世のヤクザの親分、我が町のヒーローがいかに特別だったか、一生懸命説明してくれたんですけど、ヤクザはしょせんヤクザです。当時の博徒程度の侠気はいまの暴力団にもあるし、今の暴力団の反社会性や不道徳は、当時の侠客にもあった。なにしろ、世間の権威、よくよく考えればただのまやかしでしかない虚構の力を借りて、ヤクザを弁護する必要はない。ヤクザ劇の主人公たちに対する冒涜でもあります。

昔のヤクザ物語からは、背後にある差別問題が透けて見えます。天保水滸伝のそれは巧妙に隠されていますが、予備知識があるとわかるんです。

東庄はコンパクトにまとまったヤクザ活劇の史跡です。

 

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ここは天保水滸伝資料館からすぐのところにある笹川繁蔵の愛人の実家で、残念ながら休みだったけど、位牌があるらしい。なぜ愛人というか……ヤクザは無宿人だからです。無宿人であるため正式な籍を入れられなかったので、女房と呼べない。ヤクザは当時、人の扱いを受けられなかった集団です。社会の底辺に生きた人間たちです。本来、ヤクザ活劇の面白さはそこにあるんですけど、まぁ、子母澤寛がいうように、天保水滸伝は面白ければそれでいいと思います。