自著のための補稿(鈴木智彦)

自著の資料、補足、写真、こぼれ話。

原発作業員のハーレー・ダビットソン

 

f:id:yatasuzuki:20181004151004j:plain(※第一章にあるネダリ浜に国道45号線。地元の軽トラに何度も道を譲った)

俺の悪いクセは、原稿の中にバイクや車やカメラの描写をやたら入れ込むことです。単純な話です。機械が好きだからです。『サカナとヤクザ』の第1稿にも、かなりその手の記述があったんですが、のち、ほとんど削りました。ただ、このハーレーに関しては一部残している。必然性があるからです。

ハーレー・ダビットソンというのは、アメリカでオートバイを作っている会社です。このバイクの車種名は”ウルトラリミテッド”といい、今年のモデルは¥3,864,800もします。

www.harley-davidson.com

これがどうして俺の元に来たのかといえば、原発取材の際に雇ってくれた会社の社長が「借金のカタで押さえてきたが誰も乗らない。放置しておいても駄目になる。よかったら乗っててくれないか」と電話してきたからでした。

走行距離は3000キロ程度でほぼ新車だったんだけど、とにかく下品な爆音がするマフラーがついており、さらに夜はチンドン屋になりますw まったくもってヤンキーが好きそうなバイクです。

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どれだけ乗ってもくケツが痛くならないし、風防のおかげで風を浴びなくて済む、つまり長時間乗っても疲れないんだけど、どうにも俺の好みではない。のち、密漁ガニを運んでくるロシア人甲板員に直撃取材する際、このハーレーが大変役に立ちました。ヤンキーテイストのおかげだったと思います。ロシア人にヤンキー云々も変な話ですけどw

ちょっと乗らないだけですぐにバッテリーがすぐ上がってしまったり、タイヤ代などの維持費が馬鹿にならなかったり、なにしろ渋滞に巻き込まれるとしんどくて、結局、車検まで乗って返却しました。

 

話は変わりますが、バイク書籍の中にもアワビの密漁に触れている作品があります。花村萬月の『自由に至る旅』です。バイク旅の紀行文です。

「俺が初めて行ったときには、札幌のヤクザがわざわざ車で来ていて、アワビを捕っていました。密漁でしょう。子分を潜らせるんだけど、寒いから唇が真っ青だった。それで、温泉に浸かって温まる。温まったらふたたび潜る。

 俺はヤクザの兄貴分に『兄ちゃん、これ食え』とすすめられて、そのアワビをもらっちゃったんです。温泉に浸かりながら刺身で食っちゃいました。生きてるアワビを切って、おどり食いですね。海水の塩水でおいしかったです。

 でも心が痛みました。地元の漁師が遠くから見ているわけです。完全な養殖ではないかもしれないけど、小さな貝を放しているのだと思うんです。それを根こそぎやっちゃうわけだから。

 しかも見つめる漁師に向かって、『なに見てんだよ』という具合にヤクザが凄む。食ってしまって言うのもなんだけれど、まったく居たたまれなかった」(101p。北海道への旅から抜粋)

ヤクザの本質がよく出てる話なので引用したかったんだけど、どう考えても一部に事実誤認があるので諦めました。どこがおかしいか?ま、いいじゃないですか。バイクのロマンチックな紀行文に、ヤクザのリアルはいらない。