種子島のウナギ露地池
路地池の水をポンプで抜いていくと、大方のウナギは水と一緒に吸い込まれるんですが、なかなか一網打尽にはできず、最後まで泥の中をウナギたちが這い回ります。それを写真のような箒に似た竹製の道具で、ポン歩の吸込み口まで追い込んでいくんだけど、けっこうたくさんいるので手間がかかります。写真だと明るく見えるけど、実際はけっこう暗いし、ウナギは泥の中に潜っていくのでそれを確実に捕まえなければならない。池の底には排泄物がたまっているのでその匂いがきついです。耐えられないというほどではないんだけど。
水はいったん池の横に作られたプールに注ぎ込まれ、ウナギが1箇所に集められます。ここからタモを使ってウナギを選別台にあげて、大きさごとに仕分けします。ウナギは1キロで5匹のものを5P、4匹のものを4Pと呼びます。小さい方が高いのは蒲焼きにするとちょうどお重のサイズになるからです。
写真をみれば、現場がどんな様子かすぐわかるんだけど、これを文字だけで説明するのは骨が折れます。実際、書籍を読んでからこれをみてもらうと、ああ、ってなると思う。
このタモで掬う係をやった時、俺の腕から外れて池の中に落下したプロトレックは、30分後、うなぎと一緒にタモに掬われ、この選別台で発見されました。
時計ないなーと思ってたんですけど言えなくて。タモで掬ったら、池に落としたプロトレックが出てきまして。ウナギたちありがとうって。 pic.twitter.com/6lpMgFIDe9
— 鈴木智彦/SUZUKI TOMOHIKO (@yonakiishi) July 29, 2015
→この動画には時計は写ってないですが、こんな感じでウナギと一緒にでてきた。
拿捕保険があると知った時は衝撃でした。北海道の密漁取材で一番びっくりしました。ウナギの時は、池に落としたプロトレックが、ウナギ屋の息子さんのタモに、ウナギ多数と一緒に入ってた時ですかね。俺は一生この時計を使おうって。なんの話だっつー。 pic.twitter.com/HhDuWlsIa2
— 鈴木智彦/SUZUKI TOMOHIKO (@yonakiishi) July 29, 2015
この時計、いまもちゃんと使っていますw
あとウナギの原稿では、「ウナギ登り」と「つかみ所がない」の二つは封印しました。いや、過去のいろんな記事を参照したところ、ものすごい使用頻度だったので。
初版の誤植。正誤表について
なんども確かめたつもりだったのですが、現在、初版にこれだけの誤記を発見し、二刷以降、訂正しております。申し訳ありません。
●P6 クレジット
古賀太郎→古賀大郎
●P9 10行目
●P119 8行目
トドとかアシカ→トドとかアザラシ
●P119 9行目
アシカはじゃれてくるけど→アザラシはじゃれてくるけど、
●P132 4行目
第二次吉田内閣の解散が決定した→吉田茂首相が衆議院を解散した
●P165 3行目
●P166 終わりから4行目
翌年、高寅の盟友である椎名隆は27期衆議院議員にようやく当選、法務委員となった→翌年、高寅の盟友である椎名隆は27回総選挙でようやく衆議院議員に当選、法務委員となった
●P198 2行目
昭和45年10月の最高裁は控訴棄却となり
→昭和45年9月30日の最高裁決定では上告棄却となり
●198p 3行目
このとき漁業法の最高刑は罰金10万円、6ヶ月 以下の懲役に過ぎない
→密漁がなされた当時、漁業法138条6号が定める法定刑は「3年以下の懲役又は二十万円以下の罰金」に過ぎない。
●318p参考文献
新泉者→新泉社
以上になります。
みなさんぜひ確認を。そして辞書を引く習慣を。料理でいえば、味見みたいなものかもしれない。
『サカナとヤクザ』の小学館も、辞書等の出版文化の根底を支える出版物の制作に力を入れており評価が高いです。この宣伝動画の「ふくしまさん」は、俺の高校の同級生らしい。がんばってください!広●苑捨てます!
ちなみに俺世代はまだ、辞書と朝日の用語辞典を出張校正に持ち歩いた世代です。
ずっと使ってるのは岩波です。これはもう、死ぬまで変えられないと思う。
香港の立て場
水産業でいう”立て場”には複数の意味があり、この場合、シラスを一時的に泳がせておく水槽を意味している。立て場訪問することがなぜ「すごいスクープ」(NHKの記者に言われた)になるのか、業界誌の記者から「東京湾に浮かびますよ」と脅されるのか、最初はなかなか理解できなかった。というより、あの狭い香港なのに、なかなか見つからない。香港のあちこちに”ウナギの稚魚であるシラスを探している”と質問すると、「それはなに?」と逆質問が戻ってくる。
最初は客を装って侵入しようと思っていた。偽iPhoneの工場を突き止め、潜入した凄腕のコーディネーターに下調べをお願いした。しかし、数ヶ月調べてもしっぽさえ掴めない。時間と取材費には限りがある。これ以上はつぎ込めなかった。次はどうするか。日本の大手養鰻業者はみな香港からのシラスを輸入している。ならばシラス問屋を口説くしかない。
撮影時、ここにはシラスが泳いでいないので、ただのいけすでしかない。しかし、それでも我々を同行してくれたシラス問屋にとっては裏切り行為になる。本当はあちこちディティールが分かる写真もあり、室内で犬が放し飼いなので、もっと怪しげな写真がたくさんあるのだが載せられない。
「ここからシラスを出すのは合法、ここにシラスを運ぶのは違法」
業者の言い分をきくと騙されそうになるが、よくかんがえれば真っ黒だろう。立て場は密輸の物的証拠なのだ。
密漁団車両の特別装備
密漁団の使うハイエースなどのワンボックス車や、陸周りの車には特別なスイッチが後付けされている。これをオフにすると、インパネ照明、ブレーキランプ、バックライトが消える。密漁団にとって、海産物の積み込みは現行犯逮捕されれば言い逃れできない魔の時間だ。一切の灯りを付けずに作業するため、車の燈火のすべてが邪魔なのだ。
明々白々の状況証拠と思うんだが、警察が不正改造で逮捕するということはないらしい。どうってことない改造なんだけど、ブレーキランプが消えるというあり得ない状況をみるとびっくりします。
ホクレンフラッグと間違えて、ロシア人に出した旗
『サカナとヤクザ』に出てくる旗、まさにそれだけの写真ですw 相手が日本語分かんないでよかったw
やっとまともな取材ができた漁協の関係者
市山さんは北海道の漁協関係者じゃ有名人だったので、インタビューには応じてもらえないかと思っていた。連絡先を調べ、電話を入れ、これまで何度も漁協に取材を申し込んだが断られたことも話したら、「そりゃそうだよ」と笑っていた。
その理由は「サカナとヤクザ」に書かせてもらった。市山さんは「密漁団を殺すには刃物はいらねぇんだ」「潜水での怪我は、骨が折れたとか、筋を痛めたとは全部すっ飛ばして死ぬか生きるかだ」など、原稿に使いたくなるフレーズがごっちゃりあった。
話を聞かせてもらったのは市山さんの番屋……漁師小屋である。この左側には網のほつれを直しているおじいちゃんが黙々と仕事をしていて、若いヤツよりずっと役に立つのだろうなと感じた。