自著のための補稿(鈴木智彦)

自著の資料、補足、写真、こぼれ話。

築地市場の暴力団との決別宣言は2つあります。

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最初は平成6年だから、たぶん暴対法が施行(平成4年)された直後、利権が欲しい警察が築地に乗り込んできて書かせたものだと思う。

もうひとつは平成24年だから、東京都の暴排条例に合わせて出されたんだろう。事務室の廊下に2つ貼ってある。こんなもん、俺しか興味持たないと思うけど、豊洲に移転するときは持って行くのだろうか。『サカナとヤクザ』では、説明が長くなるので後者だけ触れています。

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っつーか、密漁のヨコモノ売ってるくせにアホらしいよね。こんなの。

魚河岸の仲卸に面接に出かけた朝は雨だった。

 

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写真のExif情報をみると2013年12月19日‏5:56:16とある。面接は6時からだったんだけど、仲卸の跡継ぎが15分以上遅刻してきたので、仕方なく雨の中で待つことになった。しかしすごいよね。携帯で写真撮るだけで、そんなことまで記録され、自分の記憶がありありと蘇る。

なぜ面接を受けたか……2008年、三陸の密漁アワビが築地市場で売られていることを突き止めた宮城県警海上保安庁の合同チームは築地市場にガサ入れをかけた。あ、家宅捜索のことっすw しかし、「密漁アワビという認識があって売っていたわけではない」という、よくある犯罪者の自己弁護に阻まれてしまう。でもさ、プロが見抜けないはずはないよね。だとすれば仲卸という魚のプロの目は節穴ということじゃん。

『潜入』というと大げさだけど、「密漁アワビ売ってますよね?」と質問したところで、正直に答えるはずがない。俺がわざわざアワビを扱う仲卸に就職したのは、オフレコでいいから本当のところを知りたかったからだ。

 

さて……ブログなので好き勝手にバイクのことを書かせてもらうw
この時乗っていたのはCB750KAというバイクで、『ナナハンライダー』の主人公の愛車と、『バリバリ伝説』主人公のCBという超人気モデルに挟まれたマイナーな車種である。それも俺らしい気がして好きだった。元来、このバイクは東組赤松組の二代目だった横山定光さんの愛車である。彼が大阪城公園で拳銃自殺する直前、「鈴木さんCB好きやろ」ともらい受けたのだ。横山さんの奥さんは癌で半年の余命宣告をうけていた。奥さんは夫を気丈に見送り、数ヶ月後に亡くなった。不思議なことに彼が自殺してからいっそうCBに愛着が湧いた。

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このバイクで毎日築地に通勤してたんだけど、その顛末は書籍にある通り。バイクの破損はそうたいしたことはなかったんだけど、なんとなく醒めてしまって、九州の知り合いにあげちゃった。その時の反則切符には”魚屋”って書きましたw

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そのあとはRZ50という俺が高校生の時に大人気だったゼロハンで通ったんだけど、これも飯田橋エンジンブローした。

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 その後、決定的な言質を取った4月まではモトコンポやハーレーで通いました。いやー、原稿と違い、思う存分バイクのことが書けて大満足ですw

ネダリ浜

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ネダリ浜は正式名を弁天漁港という。俺が初めて取材したアワビの大量密漁事件は、この港で待ち伏せしていた海保職員が、北海道から遠征してきた密漁チームを現行犯逮捕したものだった。

「現場を見たいんですか?分かんないんじゃないかな。譜代漁協に行けば教えてくれます。人気のない、急な道を降りていくと、漁港は漁港だけど、え?こんなとこに港の設備があるのかっていう場所があるんです。港の設備はある。いちおう岸壁があって。コンクリートで防波堤作って」(海保職員)

説明を聞いても、頭に絵が浮かばない。そんな場所は俺の認識する世界には存在しない。釜石から海沿いをバイクで走るのだが、なかなか到着しなかった。たしか4時間くらいかかった記憶がある。到着した時はもう真っ暗だったけど、浜に降りる側道がハーレーでは無理な急坂であることは分かった。結局、懐中電灯を手に徒歩で降りた。

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今年、北海道からの帰路、5年ぶりにネダリ浜に出かけてみたところ、煌々と常夜灯が点いており、新しい施設も出来ていた。震災直後は真っ暗で、岸にあったコンクリート製の建物は窓もドアも破壊されており、暗闇の中から波の音だけが聞こえてきた。

俺は幽霊云々を一切信じていないが、それでもかなり不気味である。密漁団はこの真っ暗な海にアキレスのゴムボートで漕ぎ出し、ライトを点けずに漆黒の中へとダイビングする。

 

海上保安部と漁協

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密漁は海の犯罪だから、どうしても海上保安庁に取材しなくてはならない。実際は警察も密漁を取り締まれるんだけど、海のプロの話が最も詳細、かつ面白い。ところが海保に正面から取材を申し込むと、まぁ役所はどこもそうだけど、取り締まりの現場を全然知らない背広組がぞろぞろ出てきて、質問しても通り一遍の返答しかない。WEDGEでウナギの取材をしていた時、編集部のKさんが鹿児島にある第十管区に取材申し込みをしてくれたんだけど、ものすごい横柄にあしらわれたらしい。あまりにひどいんでチラッとあれこれアピールをしたところ、突然態度を変えたんだそう。「今までの取材で一番むかつきました」と怒ってたけど、それだけ苦労して真正面から取材しても、ほとんど成果は得られない。

現場で密漁取り締まりをしている職員たちの話はネタの宝庫だ。彼らは体で密漁を知っている。でもそんなプロと知り合う機会もないし、よしんば出会っても短時間でなかなかぶっちゃけ話をしてくれるほど懐深くまで飛び込めない。しかし、それよりもっと時間がかかり、苦労する取材がある。漁協だ。

漁協はいわば犯罪の被害者である。暴力団に定着性の海産物を密漁され、悔しい思いをしてるはずなのに、そう簡単には取材に応じてくれない。こっちがバックを持たないフリーライターだからかもしれない。しかし、この5年、あまりに漁協から断られすぎて、なにか他に理由があるのではないかと思うようになった。

とあるアワビの密漁事件を担当した海保の職員に、なんとかオフレコで話を聞いてあてをつけ、

「漁協……ここらへんだと宮古が大きい。あそこには岩手県漁連会長がいますから。大井さんっていうんだけど、元気のいいおじいさんで、全漁連の副会長でもある。(アワビ密漁の取り締まりのニュースを聞いて)たいへん喜んでたそうです」

と言われたから、よし、宮古ならOKしてくれると思い、正面から取材申し込みをするんだけど、やっぱり断られる。よほど海保の人に紹介されたんです、と言いそうになるんだけど、オフレコなのでそれは言えない。

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宮古漁業協同組合:組合概要

 

ああ、そういうことか……と事情が分かってきたのはつい去年あたり。探られたくない事情があるのだ。それからは評判の悪い漁協を狙って取材申し込みを続けてきた。当然、連敗記録を更新中である。こっちも意地になっている。意味ないんだけどもw

 

原発作業員のハーレー・ダビットソン

 

f:id:yatasuzuki:20181004151004j:plain(※第一章にあるネダリ浜に国道45号線。地元の軽トラに何度も道を譲った)

俺の悪いクセは、原稿の中にバイクや車やカメラの描写をやたら入れ込むことです。単純な話です。機械が好きだからです。『サカナとヤクザ』の第1稿にも、かなりその手の記述があったんですが、のち、ほとんど削りました。ただ、このハーレーに関しては一部残している。必然性があるからです。

ハーレー・ダビットソンというのは、アメリカでオートバイを作っている会社です。このバイクの車種名は”ウルトラリミテッド”といい、今年のモデルは¥3,864,800もします。

www.harley-davidson.com

これがどうして俺の元に来たのかといえば、原発取材の際に雇ってくれた会社の社長が「借金のカタで押さえてきたが誰も乗らない。放置しておいても駄目になる。よかったら乗っててくれないか」と電話してきたからでした。

走行距離は3000キロ程度でほぼ新車だったんだけど、とにかく下品な爆音がするマフラーがついており、さらに夜はチンドン屋になりますw まったくもってヤンキーが好きそうなバイクです。

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どれだけ乗ってもくケツが痛くならないし、風防のおかげで風を浴びなくて済む、つまり長時間乗っても疲れないんだけど、どうにも俺の好みではない。のち、密漁ガニを運んでくるロシア人甲板員に直撃取材する際、このハーレーが大変役に立ちました。ヤンキーテイストのおかげだったと思います。ロシア人にヤンキー云々も変な話ですけどw

ちょっと乗らないだけですぐにバッテリーがすぐ上がってしまったり、タイヤ代などの維持費が馬鹿にならなかったり、なにしろ渋滞に巻き込まれるとしんどくて、結局、車検まで乗って返却しました。

 

話は変わりますが、バイク書籍の中にもアワビの密漁に触れている作品があります。花村萬月の『自由に至る旅』です。バイク旅の紀行文です。

「俺が初めて行ったときには、札幌のヤクザがわざわざ車で来ていて、アワビを捕っていました。密漁でしょう。子分を潜らせるんだけど、寒いから唇が真っ青だった。それで、温泉に浸かって温まる。温まったらふたたび潜る。

 俺はヤクザの兄貴分に『兄ちゃん、これ食え』とすすめられて、そのアワビをもらっちゃったんです。温泉に浸かりながら刺身で食っちゃいました。生きてるアワビを切って、おどり食いですね。海水の塩水でおいしかったです。

 でも心が痛みました。地元の漁師が遠くから見ているわけです。完全な養殖ではないかもしれないけど、小さな貝を放しているのだと思うんです。それを根こそぎやっちゃうわけだから。

 しかも見つめる漁師に向かって、『なに見てんだよ』という具合にヤクザが凄む。食ってしまって言うのもなんだけれど、まったく居たたまれなかった」(101p。北海道への旅から抜粋)

ヤクザの本質がよく出てる話なので引用したかったんだけど、どう考えても一部に事実誤認があるので諦めました。どこがおかしいか?ま、いいじゃないですか。バイクのロマンチックな紀行文に、ヤクザのリアルはいらない。

黒いあまちゃん

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正直、なにもかも「黒いあまちゃん」という言葉の引きの強さからでした。当然、密漁の取材は三陸のアワビから始めました。当時はまだあちこちにポスターが貼ってあって、あまちゃんの裏側にあるドロドロを取材するのが少々後ろめたくもあった。いや、嘘はいけない。俺は人間の匂いがしない物語に興味がありません。NHKの連ドラには1ミリの興味も持てなかったけど、実際のアワビを巡る暗闘を知り、これが人間ドラマだ!こうでなくちゃ!と高揚したのを思い出します。

黒いあまちゃんを探すのはものすごく大変でした。当時、密漁が盛んな地域で、「こいつ(密漁チームに)女がいるって書いてるべや。適当なんだ」とまで言われた。 彼女とは5年前、そして今年会いました。再会のドラマはぜひ本書をお読み下さい。

 

 

第一章【岩手・宮城 三陸アワビ密漁団 VS 海保の頂上策作戦】の扉写真

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実際、『サカナとヤクザ』第一章の扉で使った写真は、ここにあるウニとナマコを隣のテーブルを移動させ、アワビの皿だけを撮った別テイクです。皿に載せられたアワビの刺身……そして担当編集がつけた「アワビの密漁はヤクザのシノギ」というどーでもいいキャプション。第一章の顔ともいうべきページが普通&普通になっているので、どうしようかものすごく悩みました

いや……実を言えばここの写真は普通ではないんです。撮影したのは、とある密漁団が経営している直営店です。なので写っているのはガチの密漁アワビ(ウニとナマコもヨコモノ←密漁品)というわけ。事情を知らずにみればただのお料理写真だけど、実際はたいへん危険な冒険をしていますw

 その事情を書きたい…しかし余計なことを書いて店が特定されるとまずい……そもそも皿でばれるかもしれない。結局、実を言えばヤバい写真を、よくあるどーでもいいキャプションで使用することに決めたんです。どういう判断なのか自分でも悩みます。時間がなかったので頭が回らなかったというのが正直なところです。

ま、ここに書いたら意味ないんですけどw

勘定はこれで1000円でした。見ての通り、ウニはもう溶け始めていました。

この店にも地元テレビ局が取材にくるんだそうです。地方新聞やローカル局は、地元密着をウリにしてるわけですが、現状、地元のインチキを見てみぬふりすることになっているように感じます。地方紙のマスコミ魂に、過剰な幻想を抱いている俺は、いつも裏切られてばかりでちょっと悲しいです。