自著のための補稿(鈴木智彦)

自著の資料、補足、写真、こぼれ話。

香港の立て場

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水産業でいう”立て場”には複数の意味があり、この場合、シラスを一時的に泳がせておく水槽を意味している。立て場訪問することがなぜ「すごいスクープ」(NHKの記者に言われた)になるのか、業界誌の記者から「東京湾に浮かびますよ」と脅されるのか、最初はなかなか理解できなかった。というより、あの狭い香港なのに、なかなか見つからない。香港のあちこちに”ウナギの稚魚であるシラスを探している”と質問すると、「それはなに?」と逆質問が戻ってくる。

最初は客を装って侵入しようと思っていた。偽iPhoneの工場を突き止め、潜入した凄腕のコーディネーターに下調べをお願いした。しかし、数ヶ月調べてもしっぽさえ掴めない。時間と取材費には限りがある。これ以上はつぎ込めなかった。次はどうするか。日本の大手養鰻業者はみな香港からのシラスを輸入している。ならばシラス問屋を口説くしかない。

撮影時、ここにはシラスが泳いでいないので、ただのいけすでしかない。しかし、それでも我々を同行してくれたシラス問屋にとっては裏切り行為になる。本当はあちこちディティールが分かる写真もあり、室内で犬が放し飼いなので、もっと怪しげな写真がたくさんあるのだが載せられない。

「ここからシラスを出すのは合法、ここにシラスを運ぶのは違法」

業者の言い分をきくと騙されそうになるが、よくかんがえれば真っ黒だろう。立て場は密輸の物的証拠なのだ。

 

 

 

花咲港のイカ釣り船

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いまのイカ釣り船は、イカをおびき寄せるためのライトがLEDになっていて、ずいぶん雰囲気が変わってしまった。根室の章に、この街が賑やかだった頃、全国から根室にやってきたイカ釣りの船を係留する場所がなく、5隻、6隻数珠つなぎにしていたという証言を載せている。

これだけでもけっこう「うわっ」と声が出てる感じで、船がたくさんいる印象を受けるんだけど、これがそれぞれ5,6隻繋がっていたのだから、かなりのものだったろう。こうした写真をみれば、少しは想像しやすいかと思います。

密漁団車両の特別装備

 

f:id:yatasuzuki:20181018020107j:plain密漁団の使うハイエースなどのワンボックス車や、陸周りの車には特別なスイッチが後付けされている。これをオフにすると、インパネ照明、ブレーキランプ、バックライトが消える。密漁団にとって、海産物の積み込みは現行犯逮捕されれば言い逃れできない魔の時間だ。一切の灯りを付けずに作業するため、車の燈火のすべてが邪魔なのだ。

明々白々の状況証拠と思うんだが、警察が不正改造で逮捕するということはないらしい。どうってことない改造なんだけど、ブレーキランプが消えるというあり得ない状況をみるとびっくりします。

 

 

 

ホクレンフラッグと間違えて、ロシア人に出した旗

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『サカナとヤクザ』に出てくる旗、まさにそれだけの写真ですw 相手が日本語分かんないでよかったw

 

 

 

やっとまともな取材ができた漁協の関係者

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ひやま漁協の元組合長である市山亮悦さん

市山さんは北海道の漁協関係者じゃ有名人だったので、インタビューには応じてもらえないかと思っていた。連絡先を調べ、電話を入れ、これまで何度も漁協に取材を申し込んだが断られたことも話したら、「そりゃそうだよ」と笑っていた。

その理由は「サカナとヤクザ」に書かせてもらった。市山さんは「密漁団を殺すには刃物はいらねぇんだ」「潜水での怪我は、骨が折れたとか、筋を痛めたとは全部すっ飛ばして死ぬか生きるかだ」など、原稿に使いたくなるフレーズがごっちゃりあった。

 

話を聞かせてもらったのは市山さんの番屋……漁師小屋である。この左側には網のほつれを直しているおじいちゃんが黙々と仕事をしていて、若いヤツよりずっと役に立つのだろうなと感じた。

 

 

ターレーを自家用にしたい人、俺の他にもいるだろう。

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ターレーってのは、ターレットトラックという意味で、戦車の砲塔のように駆動部(前輪部分)がグルグル回転するからです。なのでものすごく小回りがきき、狭い冷凍庫の中でも方向転換が出来きます。

築地にはまだガソリンターレーも残っていて、大坂では地元のヤクザが反対意見を潰し、一気に電動化が進んだんだけど、豊洲じゃどうするんですかね。三菱など、ターレーのメーカーも各種あります。空気を使わないノーパンクタイヤとノーサスで、耐荷重は1000キロとか2000キロです。ちなみに軽トラックの最大積載量は350キロで、ターレーがどれだけ思い物を運べるか分かると思います。

ターレーのミニカーは、俺がバイトしてる時、同業者の畠山理仁さんがプレゼントしてくれました。畠山さんは、俺が勝手に「この人を嫌いといってるヤツのことは嫌い」と認定してる人で、『黙殺』が開高健ノンフィクション大賞をとったときは、我が事のように嬉しかったです。『黙殺』はちょーおもろいので、機会があればぜひご一読下さい。

 

 

 

 

ぜひとも北方領土を見に行って欲しい。

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北方領土までの距離がすっごく近い、視察に来た政治家や役人が「こんなに近いとは思わなかった」と漏らし、地元をがっかりさせてることは、『サカナとヤクザ』でもけっこう書きました。そういった嘆息はいろんな本に書かれており、本書では沢木耕太郎の著作を引用してます。

写真ってのは、装着しているレンズで遠近感が変わってしまうんですけど、写真の赤い矢印が貝殻島灯台で、ロシアが実効支配してる海域です。手前の前浜に漁船がみえるのは歯舞漁協の昆布漁です。いまはロシアに入漁料を払って昆布漁をしています。その金は税金から出てます。

根室のスナックで訊くと、昆布漁師は金持ちなんだそうです。

「東京から来たマスコミ記者が思い込みで、北方領土で苦しんでいる貧乏漁師をイメージしてると怪我するわよ」

地方に出た時、スナックで取材するのはほんと大事。ホステスの一言は、時折、核心をえぐる。