自著のための補稿(鈴木智彦)

自著の資料、補足、写真、こぼれ話。

香港の立て場

f:id:yatasuzuki:20181018155933j:plain

水産業でいう”立て場”には複数の意味があり、この場合、シラスを一時的に泳がせておく水槽を意味している。立て場訪問することがなぜ「すごいスクープ」(NHKの記者に言われた)になるのか、業界誌の記者から「東京湾に浮かびますよ」と脅されるのか、最初はなかなか理解できなかった。というより、あの狭い香港なのに、なかなか見つからない。香港のあちこちに”ウナギの稚魚であるシラスを探している”と質問すると、「それはなに?」と逆質問が戻ってくる。

最初は客を装って侵入しようと思っていた。偽iPhoneの工場を突き止め、潜入した凄腕のコーディネーターに下調べをお願いした。しかし、数ヶ月調べてもしっぽさえ掴めない。時間と取材費には限りがある。これ以上はつぎ込めなかった。次はどうするか。日本の大手養鰻業者はみな香港からのシラスを輸入している。ならばシラス問屋を口説くしかない。

撮影時、ここにはシラスが泳いでいないので、ただのいけすでしかない。しかし、それでも我々を同行してくれたシラス問屋にとっては裏切り行為になる。本当はあちこちディティールが分かる写真もあり、室内で犬が放し飼いなので、もっと怪しげな写真がたくさんあるのだが載せられない。

「ここからシラスを出すのは合法、ここにシラスを運ぶのは違法」

業者の言い分をきくと騙されそうになるが、よくかんがえれば真っ黒だろう。立て場は密輸の物的証拠なのだ。